[相場考] 第6コンドラチェフ循環と広義の健康産業

2020年6月6日チャート分析, テクニカル用語・指標, 投資のヒント, 日経・為替チャート, 日経平均, 独自コラム, 相場考, 貨幣論

今回はコンドラチェフサイクルの視点で未来の経済について考えてみます。コロナショックの襲来は非常に示唆的です。広義の健康が新時代を牽引する基幹産業になる可能性があるからです。広義の健康とは、本文でも述べるように心身の健康+お財布の健康(金銭面の不安の解消)のことです。

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コンドラチェフ循環

コンドラチェフ循環は、技術革新(イノベーション)による産業構造の変化に着目した代表的な景気循環論で、約50年を1サイクルとカウントするものです。

日本経済も例外でなく、戦後の高度成長期は以下のように、最初の40年(2/3)の期間を回復⇛好況期、その後の20年(1/3)を後退⇛不況期とする59年のサイクルと見なせます。

日経平均(年足)

景気循環

(画像出典:大和証券ウェブサイト https://www.daiwa.jp/seminar/technical/05/ )

コンドラチェフの長期視点で見れば、日経平均は新しいコンドラチェフ循環に入っていると考えられるのです。

新たな経済成長の牽引役は広義の健康産業

コンドラチェフ循環の専門家によれば、新しいサイクルは第6のコンドラチェフサイクルなのだとうです。解説を和訳してみましょう。

The fifth Kondratieff began in the early 1950s. Its driving force originated in computer-based information technology. With constantly increasing speed, information technology permeated all areas of society and turned the world into a global village of information. During the fifth Kondratieff, the industrial society changed over into an information society. Since then, economic growth is primarily defined as growth in the information sector.

第5のコンラチェフサイクルは1950年序盤に始まった。原動力となったのはコンピュータ情報技術の躍進である。日進月歩の処理能力の向上で情報技術は社会の隅々に浸透し、地球全体をひとつの「情報村」にした。工業社会は情報社会に変わり、第5コンラチェフ期の経済成長は基本的に情報セクターの成長が牽引した。

The fifth Kondratieff ended at the turn of this century. At the same time it ended, the sixth Kondratieff cycle began. The carrier of this new Kondratieff cycle will be health in a holistic sense.

第5コンラチェフサイクルは21世紀初頭に終わった。同時に第6のサイクルが始まった。牽引役は大きな意味での健康産業である。

The Sixth Kondratieff

At first glance, this statement may come as a surprise. Can health expenditures, which are economically classified as pure expenses and as something negative that should thus be avoided if possible, take on the role of a locomotive for growth and employment in the future?

第6コンドラチェフサイクル

初めて聞くと意外な判断に聞こえるかもしれない。経済的に見て、健康支出など単なる経費であって、できれば減らしたい項目に過ぎないではないか。ヘルスケアなどの健康関連産業が経済を引っ張り、雇用を拡大させるなんてありえるのか、と。

At this point, we should recall the results of modern growth theory. Machi­nery, capital or jobs are only ostensibly the most important sources for economic growth. The main source for economy growth is productivity progress. The sixth Kondra­tieff is carried by an improved productivity in handling health.

現在主流の成長理論を思い出してほしい。設備投資、資本、雇用が経済成長の重要な源泉だというのはうわべの議論に過ぎない。本当に経済を成長させるのは生産性の拡大なのだ。第6コンドラチェフサイクルの成長は、健康を扱う産業の生産性拡大によってもたらされるはずだ。

(出典: https://www.kondratieff.net/kondratieffcycles

ここにいう健康産業はholistic healthとも表現されているように、心身両面に渡る非常に幅広いビジネス・サービスを指しています。

新サイクルを阻害する社会リスク(社会の病気)

筆者によれば、どのコンドラチェフサイクルにも必ずその初期にぶち当たる壁(阻害要因)があるそうです。この壁をぶち破って変化は本格的する、と。

では、第6サイクルの本格化を阻んでいる要因は何か?筆者はsocial disorderだと言います。social disorderは通常「社会不安」と訳されますが、むしろ「社会リスク」あるいは端的に「社会の病気(病理)」と訳したほうがピンとくるかと思います。具体的には以下のような事象が列挙されています。

fraud, theft, lies, sabotage, drugs, violence, hacking, cyber extortion, war, refugees, climate change, environmental degradation

詐欺、ペテン、窃盗、ドラッグ、暴力、ハッキング、ネット犯罪、戦争、難民、気候変動、環境破壊

こうした数多の社会リスクの被害総額は20兆ドル(2019年)。アメリカのGDPを軽く上回る損失規模に上ります。筆者は、こうした社会リスクを取り除く営為をまとめてhealth industryと呼んでいるわけで、そこには衣食住からメンタル(宗教含む)、環境保護に至る広範な活動領域が含まれています。

健康の5つのレベル

引用サイトの図式化によれば、健康は次の5つのレベルに細分化でき、各レベルのニーズに応じてビジネスやサービスが立ち上がることになります。金銭が絡んでいる以上、既成宗教やスピリチュアル系の諸派もサービスのひとつに数えられます。

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最もベーシックなのは(1)肉体の健康。その上に(2)社会人としての健康、(3)認識者としての健康、(4)心理・倫理面でのこころの健康、さらには(5)高次の魂(霊)の健康があります。単に医療や投薬、介護が健康産業なのではなく、(2)-(5)に関わる高度な需要の充足が求められる世の中になるというのです。

大きな時代の流れとして頷けるところです。物質の充足を果たした今の日本社会を見ても、人々の消費欲を誘うのは精神的充実に資するサービスです。もちろんモノの消費がなくなるわけではありませんが、それを超えた目に見えない価値への消費が未来の経済に大きなウェイトを占めていくのは動かしがたい流れでしょう。

日本は価値の収益化を考える時代

そして、ここにこそ日本経済がなぜ復活するか(復活しなければおかしいか)の鍵が明白に現れているように思います。東日本大震災のときもそうでしたが、コロナショックが明らかにしたのは、麻生太郎氏のいう意味での日本人の「民度」の高さでした。自然災害や疫病といった不可抗力に対処するこころの構えや行動様式は、長い歴史の精華であり、けっして一昼夜で実現しうるものではありません。今後、それはメンタルを含めた「健康」というものの有力なバロメーターになりうる「価値」なのです。それをどう収益化に結びつけるかは困難な挑戦となりますが・・・。

3つの不調:とくにお金の心配の解消が鍵

このことに関連しますが、社会リスクに触れた部分でコンドラチェフ筆者は大事な指摘をしています。

To reduce social disorder effectively, it is not enough to enact new laws, hire more police officers and build more prisons. This only treats the symptoms. If you want to fight social disorder effectively, you have to start with people and their deficits, disorders and diseases.

社会リスクを効果的に減らしたいなら、これまでのように法律を変えたり、警官や収容所を増やすだけでは不十分だ。それらは対症療法に過ぎない。症状の根本にはヒトが抱える3つの不調(金銭面の不調、精神の不調、肉体の不調)があり、これに対策することから始めなければならない。

(出典: https://www.kondratieff.net/the-sixth-kondratieff )

 3つの不調は原文では3D(deficits, disorders and diseases)です。メンタル、フィジカルの不調はともかく、deficitsとあるのは一見けげんです。deficitsの意味は、本来あるべき財政状態の不在、つまり金欠状態を指しています。

「お金の心配は心身の健康に悪い」という筆者の認識が示されているのでしょう。実際、社会の問題の多くは「お金が足りない」事態に起因しています。心身の健康産業があるなら、お金の不足を解決するビジネスやサービスもなくてはならないことになります。

類似のサービスは現存しています。たとえば、共済制度(昔の講に由来?)がそうです。また仮想通貨の設計意図は国家を介さないお金の循環であり、負債として作られるお金の弊害を克服しようとするものです(現状は投機対象に近いものですが)。

さらにベーシックインカムを給付するアイディアも実証実験が行われています。しかしべーシンクインカムで政府負担が増大することを理由に、日本が世界に誇る社会保障を部分的もしくは全面的に廃止してしまえば、国民の不安が高まって元も子もありません。ベーシックインカムの実現を目指す人には、健康はもはや「財政のお荷物」ではなく、第6コンドラチェフ時代の基幹産業になるのだと認識してほしいものです。

日本に有利な時代が来るかもしれない

「民度」の部分でも指摘しましたが、健康産業の時代は日本に有利な時代となるかもしれません。いまGAFAが我が世の春を謳歌しており、いかにも今後の世界をも牛耳りそうです。しかしGAFAは第5コンドラチェフサイクルの覇者であり、第6コンドラチェフ期に必要な情報インフラの提供者に過ぎません。

ありあまる情報を高次のメンタル・魂を含めた健康に結びつけるソフト部分では西洋文明だけでは限界があり対処できないでしょう。むしろ西洋近代化のノウハウを身に着けつつ、バックボーンに神道+仏教(禅含む)の精神伝統を持つ日本が、少子高齢化の先端で、どのような社会モデルを築いていくか、どのようなサービスを生み出すかに注目が集まっていくと思われます(国民全員で下むいてる場合じゃない!)。その際、お金の心配を取り除く試みを健康と無縁なものとして分けて考えないでほしいものです。原文に出てきたholistic healthのholisticはこの意味での心身と財政の有機的連関を含意していますので、心身財布の健康と訳すべきでしょう。

お金の心配に関連して:負債としてのお金

お金の心配は個人にとどまらず、政府にとっても悩みの種です。

では、お金が足りないのは政府が悪いのでしょうか?一般にはそう言われていますが、本質は違います。主因は現行の貨幣(通貨)システムにあります。お金を発行するしくみに問題があるから政府のお財布の健康が悪化するのです。

実は政府には誰にも借金せず、みずからお金を発行する権利があります(通貨発行権)。でも、実際には硬貨だけしか発行しておらず、残りの9割以上のお金は民間銀行が発行しています(信用創造)。お金を作ると言っても、融資先の口座に電子信号で残高を記入するだけです。

融資先?そうです。お金は必ず誰かに貸し出されるときに生まれます。例外はありません。言い換えれば、お金は負債として生まれるのです。

政府が国債をこさえる場合も同じです。政府の代わりに日銀やFRBがお金を政府に貸し出します。担保は国民の金融資産です。「政府支出を絞る(国債発行を縮小する)と市中に出回るお金が減って経済がやせ細る(国民の財布が傷む)」というリフレ派(積極財政派)の批判は正しいのですが、本質的な解決にはなりません。政府に健康を犠牲にして借金しまくれ、あとで税金で返してやるからと言ってるに等しく、政府は永久に借金漬けで健康不安を抱えたままです。

「借金など永久に完済せず、利払いだけして国債を借り換えれば済む」という議論も、同じく病巣を放置したままの理屈です。お金を必ず誰かの借金として作る現行貨幣システムを温存・延命させる「制度的」議論のひとつに過ぎません。

ああ、これではいつまで経っても政府「病人」のまま健康を取り戻せません!健康になろうと努めれば努めるほど(政府支出を絞れば絞るほど)国民経済は衰弱していくのですから。

現行貨幣システムの問題は明らかなのですが意図的に温存されてきました。背後に崩しがたい既得権益があるせいです。しかし心身財布の健康を未来の基幹産業にするなら、まずは民間の健康ビジネスでは手に負えない「政府の病気」を治療する政治を目指さねばなりません。

現行の貨幣(通貨)システムの問題点についてはすでに1930年代の社会正義運動家(といってもカトリック神父)が告発しています。システム自体が違憲である、と。詳しくは以下の記事を参照してください。

 

コンドラチェフから見る日経平均

さて、以上のようなコンドラチェフの景気循環の視点から見ると、日本経済は2009年3月の平成デフレ不況を底として、新たな景気循環サイクル(第6コンドラチェフ)に入っています。

前回同様2/3の約40年間が拡張期になるとするなら、2012年末から始まったアベノミクスは拡張期の回復フェーズに当たり、現在は必要な調整局面(コロナショック)を経て、本格的な好況期に入ろうかという局面と見なせます。2017年後半以降、日経が何をやっているかざっくり捉えると、半値戻しの23000円水準をサポート(跳躍のジャンプ台)にできるかどうかを試しているわけです。

23000円の地固めが済めば、好況期が待ちうけています。現在の状況を見ると俄に信じられないと思いますが、株価は基本的に右肩上がりを続けています。当然、ピーク時にはバブル時の39000円を超えていくことになります。