[世界経済] 脱ドルの動き―BRICS+の新通貨R5/R5+構想
本記事は、ある英文記事のざっくりした和訳文です。記事は中露側の視点に立ったものですが、議論されている内容は投資家として、いや一国民として知っておいて絶対損はない内容です。
記事をつくった背景:クリモネの危機感
等閑視しているのか、それとも恐れをなしているのか、日本を含め西側のメディアは、ウクライナ戦争をきっかけに起きている脱ドルの動きについてほとんど何も伝えません、中露と米帝の対立は伝えても、彼らが猛然と推進し始めた具体的な脱ドルへの挑戦について沈黙を守っているのです。非常に危険だと思います。
人口比でも人口動態でも、いわゆる西側を除いたBRICSなどのグローバルサウス陣営が圧倒的多数派です。彼らは米帝(ドル)の胸先三寸で踊らされてきた苦い経験を共有しています。また地球上の半分以上のエネルギーや資源をもっています。それらの戦略物資を「人質」に取られれば、西側の結束など木っ端微塵に打ち砕かれかねません。
日本は戦後、ドル支配の恩恵に浴した数少ない国のひとつです。そのため、米帝の成り行きを客観視し、媚中に陥ることなく、明日の日本を考える人材も構想も育っているとは思えないのです。
はっきり言って100年に一度の激動期に入っています。従来の政治経済の枠組みは確実に崩れ去ります。そんな国の命運を左右する重要なときにいまの政府は増税を議論し、核保有を明言しない空疎な軍備拡大を提唱しています。
いったいこの国をどうしたいのか?まるで見えません。
事前のまとめ
記事翻訳をお読みなればわかりますが、問題の焦点はドルに代わる新基軸通貨を打ち建てんとするBRICS、とくに中露の野望です。ウクライナ戦争が転回点になって、にわかに新通貨創設への動きが活発化し、上海機構、ユーラシア経済同盟、BRICSを接続するかたちでの大連合構想に発展しつつあるのです。サウジ、UAE、イラン、トルコ、シンガポールの名前が登場することをひとつ取っても、かつてない広がりと深さを感じさせます。
その主力兵器が、ゴールドと石油/ガスを担保とするR5(もしくはR5+)と呼ばれる新しいお金です。構想段階とはいえ、国際会議の場で公式に検討されている以上、無視できません。
以下、翻訳となります。
注目すべき動向
- サウジアラビアのムハンマド・アル・ジャダーン財務相が、ダボス会議でリヤド政府は今後「米ドル以外での通貨決済を検討する」と明言。これがペトロ人民元を指すかどうかは微妙。リヤド政府は「中国とともにアメリカとの戦略的関係にも満足。良好な関係を欧州その他とも構築したい」と慎重な物言い。
- イランとロシア両国の中央銀行が、米ドル、ルーブル、リアルに代えて「ステーブルコイン」を貿易決済通貨にすることを検討。武器化された米ドルの干渉を受けない、ゴールドを担保とする中央銀行デジタル通貨(CBDC)として、クリプト界はその長短をめぐって喧々諤々の議論に沸き立っている。
- 今年のBRICS 議長国は南アフリカ。アルジェリア、イラン、アルゼンチン、トルコ、サウジアラビア、UAEを新メンバー候補としてBRICS+への拡大を画策中。南アのナレディ・パンドール外相によれば、BRICSは米ドルを迂回し「富裕国の有利に偏らない、今より公平な決済システム」を創出したいとのこと。BRICS関係の緊密化とBRICS版準備通貨の実現に向けて主導的な役割を果たしてきたのは、ロシア貯蓄銀行のヤロスラフ・リソヴォリク氏。同氏によれば、複数通貨をバスケットにしたBRICS準備通貨の原構想は2018 年のヴァルダイクラブ(Valdai Club) に遡る。
ゴールド担保デジタル通貨
ゴールド担保デジタル通貨はアストラハン経済特区で特に効果を発揮すると考えられる。アストラハンは、国際南北輸送回廊(INTSC)の起点に位置するロシアの重要港湾都市であり、ロシアの輸出物資はイランを横切って西アジア、アフリカ、インド洋、南アジア方面へ出荷される。INSTC の、ひいてはゴールド担保CBDC構想の成否は、対露・対イラン制裁に対するアジア、西アジア、アフリカ諸国の対応いかんに大きく左右される。
現状の主要輸出品目はエネルギーと農産物(イランはロシア産穀物の輸入元第3位)。 次いでタービン、ポリマー、医療機器、自動車部品。 INSTC回廊のうちロシアーイラン部分だけで年間 250 億ドルの交易規模を誇る。
INSTCにとってロシア、イラン、インドで構成される「エネルギートライアド」が死活的に重要だ。インドのロシア産原油の購入額は毎年 33 倍という驚異的ペースで伸びている(インドは世界第33 位の石油輸入国)。 12 月のロシア産原油の輸入量は 120 万バレル。数か月間前からイラク産とサウジアラビア産を凌駕する。
BRICSの新準備通貨構想R5
新通貨構想のネタ元はIMFの特別引出権(SDR)モデルで、BRICS加盟国の通貨バスケットを担保とする共通通貨だ。BRICSがBRICS+に拡大すれば、新加盟国の通貨も組み入れるというもの。
前出のリソヴォリク氏によれば、新興国内で流動性の最も高いBRICS諸国の通貨を担保とするのはごく自然だ。 新準備通貨はR5 または R5+と呼ばれるが、これはBRICS通貨(ブラジルのレアル、ロシアのルーブル、インドのルピー、中国の人民元、南アのランド)がすべてRで始まることによる。
R5構想は2023年以降の突っ込んだ議論の土台となる。「新興市場国の各中央銀行にとって、R5通貨は長い目で見れば単なる決済/支払い手段ではない。ゆくゆくは価値保全や準備金の手段にもなりうる」(リソヴォリク氏)。
「準備通貨として先を行く」中国人民元がR5において主導的役割を果たすことはまず疑いがない。また、R5+への拡大の際にはシンガポールドルと UAE のディルハムを組み入れることが検討されている。リソヴォリク氏の外交的言辞を借りれば「国際金融システムのセキュリティを高める上で、R5 プロジェクトは新興国が果たす最重要な貢献のひとつに数えられる」。
なお、R5/R5+プロジェクトは、ユーラシア経済連合(EAEU)で構想されている新通貨とも密接に関わっている(ユーラシア経済委員会でマクロ経済大臣を務めるロシアのセルゲイ・グラジェフ氏が主導)。
新たな金本位制
グラジェフ氏は最新寄稿「Golden Ruble 3.0」で、クレディスイスのストラテジスト、ゾルタン・ポザール氏 (元 IMF/米財務省/ニューヨーク連銀理事で強固なブレトンウッズ III提唱者) の悪名高き 2 つのレポートー12/27付「War and Commodity Encumbrance」 (戦争とコモディティの障害) と12/29付「War and Currency Statecraft」(戦争と通貨工作)ーに直接言及している。
注目すべきは、両者が相互引用するなど、異なるアイデアがひとつところへ収れんしつつあることだ。グラジェフ氏の議論を見ていこう。彼が強調するのはゴールドの戦略的重要性だ。
まず、ロシアの輸出業者が、ロシアの主要経済パートナー(EAEU 諸国、中国、インド、イラン、トルコ、 UAE)の銀行口座に各国の「ソフト通貨」で積み上げている数10億ドル規模の現金残高に注目。そして石油、ガス、食糧、肥料、金属、無機固体材料の価値をゴールド建てで再計算するメリットを唱える。ゴールドは西側の制裁と戦う唯一無二のツールになりうる、と。
「クレディスイスのポザール氏の算定方式を用い、原油2バレル当たりゴールド1グラムのレートに原油価格を固定すると、ドル建てのゴールド価格は上昇せざるをえない。これは西側諸国が制裁で課した上限価格(西側の望む安定基盤)に対する、資源国側の適切な対応となる。インドや中国の業者が、グレンコアやトラフィグラといった西側の世界的商社の役目を果たすことも可能だ」
グラジェフ氏とポザール氏の議論はゴールドの再導入という点に収れんしているのである。ニューヨークの金融メインプレーヤーを驚かせるに十分だろう。
次に、グラジェフ氏はGold Ruble 3.0 への工程を描いて見せる。 最初の金本位制は、19 世紀ロスチャイルド家の働きかけで実現した。これにより「彼らはゴールド貸出を通じて大陸欧州を大英帝国金融システムに従属させる機会を得た」。 このときロシアにも導入されたGold Ruble 1.0 は「資本の蓄積過程になった」。
Gold Ruble 2.0 はブレトンウッズ後に導入され、「急速な戦後経済復興を可能にした」。 しかし「改革者フルシチョフがルーブルのゴールドペグを解除し、1961年ルーブルの価値を1/2.5倍に切り下げる通貨改革を断行した。爾後、ロシアが”原材料の供給業者”として西側の金融システムに従属する素地をつくったのである」。
グラジェフ氏が提案するGold Ruble 3.0は、ロシアの産金量を GDP の 3% まで高め、それを通じてコモディティ市場の成長を急拡大することだ(GDP の3割)。産金国の世界的リーダーになったロシアは「強いルーブル、強い予算、強い経済」を手に入れる。
南の卵をぜんぶ同じひとつのバスケットに
ポザール氏は半分冗談に現在の BRICS 5か国に新メンバー二国を加えたBRICS+ のことを「東の G7」と呼んだが、グラジェフ氏のGold Ruble 3.0は将来の東G7全体の通貨基盤になる可能性がある。
ブレトンウッズ創設時、米国は世界の中央銀行保有ゴールドの大半を保有し、世界GDP の半分を支配していた。 そして、この寡占体制を基盤としてその後世界金融システムの支配を進めていった。この事実をグラジェフ氏もポザール氏も誰よりもよく知っている。
グラジェフ氏の脱ドル構想は、現在、非西側世界で広く注目を集めている。新金本位制を携えて実現すれば、この通貨がやがて米ドルに取って代わることはほぼ確実だからだ。
ポザール氏は、ペトロ人民元というそれ自身画期的な取り組み以上に、グラジェフ氏の通貨バスケット構想のもつ意味について深い理解を示している。彼は産業界への影響について、こう言う。
「ロシア、イラン、ベネズエラの三か国で現在確認されている石油埋蔵量の約 40% を占めるが、現在、どの国もバーゲン価格の石油を人民元建てで中国に卸している。先ごろドイツの化学メーカーBASFはルートヴィヒスハーフェンの主力プラントを恒久的に縮小し、中国に移すことを決めた。欧州で高い石油を買うより中国で安い石油を買うほうが有利だからだ」
脱ドル競争
エネルギー集約型産業は現在、中国中心にシフトしている。これは見逃せないポイント。ロシアの欧州向けLNGの多くを中国が買い、同じく欧州向けだったロシアの石油やディーゼルなどの精製品の多くをインドが買っている。 中国もインドもBRICSメンバーのロシアから市場価格より安く石油を買い、利ざやを乗せて欧州に再輸出している。これのどこが制裁なのだろうか?
そうこうしている間にも、南側では新決済通貨バスケットに向けた動きが進んでいる。グレジェフ氏とポザール氏の遠距離対話は、ポザール氏のインフレ懸念(通貨を増発するには天然資源の供給を増やさざるをえず、景気減速などでカネ余りのインフレを招きかねない)に対して、ゴールドをセットにする(ゴールドの量的制約で担保価値を補強する)というグレジェフ氏の応答により、さらに興味深い進展を見せた。
以上の事象はすべてウクライナという、中露と欧州を隔てる深い裂け目がゆっくり着実に消えようとする過程で起きている。米帝は今のところ欧州を丸ごと飲み込んでいるかもしれない。しかし未来の地球経済にとって雌雄を決するのは、人口比で北を圧倒するグローバル・サウスの出方だ。彼らが中露主導の経済ブロックにどの程度コミットするか。
BRICS+ の経済的優位は今後 7 年以内に現実化しよう。大西洋対岸の巨大で機能不全に陥ったならず者核大国が、どんな毒をばらまこうとも。決着をつけるためには、まず新通貨で実際に経済を動かすことだ。
翻訳終わり
参考記事:記事中のポズサーはポザールのこと。ネイティブの発音を正確に写すとポザールのほうが適切と判断。