[仮想通貨考] リップルとビットコインは似て非なる存在

2018年1月2日独自コラム

※これは2017年11月初めに書いた記事だが、「リップルとビットコインは趣旨が異なる」という本質は変わっていないと思うので再掲する。

リップル(XRP)はいま仮想通貨市場の時価総額で4位につけている。基盤技術は近いが趣旨がビットコインとは違うところにある。国家や多国籍企業を巻き込んでいる点ではイーサリウムに近い。以下、リップルについて簡単に考えてみたい。

リップルとビットコインの違い

リップル(XRP)とビットコイン(BTC)は似て非なる存在だ。主な違いを見てみよう。

決済スピードと手数料

リップルのトランザクション件数はビットコインより相当少ないので4秒で完結するという。その分、決済手数料も安くなる。反対にビットコインの手数料はスケーリング問題、取引人口の急増で高騰気味。

マイニング(採掘)不要

XRPは既に1000億ユニット発行済みだが、一部のみが市場に出回っている。これは規模の拡大に合わせて小出しにしていき、XRP価値の稀薄化を防ぐため。したがって何のプレミアもつかない無価値なマイニング(採掘)を行うもの好きはいない。

第三者機関の介在

XRPによる決済に既存の銀行が参加し合法性を担保するため取引当事者には安心。金融機関から見ればビットコインなどの仮想通貨は商売敵だが、リップルはネット上の決済プラットフォーム。リップルはビットコイン、イーサリウム、ライトコインなどに比べまだ規模が小さいが、軌道に乗ればポテンシャルは半端ない。

 

ビットコインとは似て非なるリップルの究極ゴール

リップルの究極の目標は国際金融決済の標準ネットワークになることにある。つまり、新時代の “中抜き業者” 向けインフラになることだ。

※中抜き業者とは銀行やクレジットカード会社、国際決済業者(特にSWIFT)などカネの送受の仲立ちをして手数料を中抜きする業者。これがバカ高くて遅いから、貧しい国では不満が多く、そこをビットコインにつけいれられたという経緯がある。

価値のインターネット

リップル開発者はリップルは「価値のインターネット」(IoV: Internet of Value)のインフラになるのだという。いまネットで情報が当たり前にやり取りされているように、リップルネットワーク上で当たり前に “価値” をやり取りできるようにする、と。この場合、”価値” とは、ぶっちゃけて言えば、IOU(借用証書すなわち誰かの負債)のことだ。

ビットコインとは発想がまったく違う。ビットコインは中抜き不在の、いわば貧者のための決済システム(リテール向け)であるのに対し、リップルはそういうリテール需要を超えて、はなから大銀行や大企業の決済をターゲットにしている。

ゆくゆくは地球規模のクリアリングハウスであるWestern UnionやSWIFTをも呑み込む算段だろう(すでにSWIFTとリップルの連携の動きが起きている)。非常に野心的なのである。

XRPは通貨というよりトークン

リップルネッワークにおいてXRPは自転車の車輪を滑らかに回すグリースの位置づけだ。このグリースがなければ、高速な決済も認証も進まないからだ。イメージとしては通貨というより、小口、大口を問わない、あらゆる国際決済・送受金ニーズを囲い込むための疑似通貨(トークン)なのだと考えた方がいい。

※ちなみにトークンという手段は貨幣としては硬貨(コイン)より古い歴史を持っている。貨幣が生まれた時からトークンは使われていた。ツケの記録用の棒きれなど、一種の信用取引の道具として利用された。

リップル社が、ビットコインと異なり最初から大量のXRPを発行済みであるのは、バランスシートの意識があるからだ。そこに資産を書き込んでおくのだ。そうしないと発足時の価値の裏付けがない。

システムが稼働し始めると最初から資産がある。そこへ外部から負債であるIOUが入ってくる。資産と負債が打ち消し合って消滅するとき手数料が発生する。XRPを媒介とすることで、世界のどの法定通貨ペアでも構わない。これは大変便利だし、金融機関にとっても朗報だ。いままではSWIFTなんかに膨大な手数料を取られていたからだ。

こうなると個々の手数料は微々たるものでも、気の遠くなるようなトランザクション件数が発生するだろう。順調に稼働すれば目もくらむような売上になるのではないか。

 負債のマネタイズという金融系の発想

リップルとはヒトのふんどしを利用した “負債のマネタイズ” スキームと考えればいい。成功するかどうかはわからないが、可能性としてはグーグルの広告収益モデルを軽く凌駕する巨大ビジネスモデルだと思う。

そのためなのだろう、リップルに絡んでいるメンツはグーグルの投資部門、FRBのバーナンキ、WWW創設者のティム・バーナーズと錚々たる面々で、ビットコインとは “素性” が違う。

投資対象としてはリップルの方が安全?

“通貨革命” という視点では完全に既成の金融権力、支配層寄りのリップルには魅力がない。上から目線が気に障るし、心情的にはビットコインを応援したい。だが一投資家として冷静に見ると、ビットコインよりリップルの方が長期的に魅力的だし安定的に映る。市場ポテンシャルが違い過ぎるのだ。

民意がビットコインの野武士性をどこまで支持するか

ビットコイン陣営は、(少なくても設立当初は)ゴールディングの小説『蠅の王』のように、国家から分離した “島” のなかで独自の経済共同体を立ち上げたいアナーキー集団という感じだ。

参考:蠅の王 – Wikipedia

コンピューターナード(PCオタク)とエンジニアとテクノロジストの集まりだから、ビジネス感覚(経営感覚)の希薄さがネック。重要な事柄で内輪もめが続き、合意形成ができない。なんたらストリームというような、うさんくさい奴らに乗っ取られる始末。それでハードフォークを繰り返しているのだが、コア派の変貌ぶりが衆目に晒される日も遠くないだろう。

長期的に考えてもビットコインコアのスケーラビリティ(拡張性)はネックであり続けるだろう。手数料の高騰を招き、”貧者の通貨” ではなくなりつつある。そしてビットコインキャッシュの追い上げを受けている(というより、本来のビットコインの趣旨に近いのはキャッシュの方だ)。

ビットコインは金鉱を意識した設計なので発行上限がキャップされている。それが将来的にはデフレ要因となる。現在の高騰が放置されているのは、ネットバブルのときのヤフー株と同じで、得体の知れない存在に対する畏怖のようなものか。そのうちビットコインコア派の “変質” はみんなに認識されるだろう。

フロントランナーはトップランナーとして君臨し続けられないのが過去の歴史が示す人間界の掟だ。 野茂よりイチローが伝説になるのだ。